作り手と売り手の気持ちがひとつになって誕生した
ユニオンインペリアルのミレニアルラスト Vol.2

右側:足なりの木型「後方屈曲木型」のミレニアルラストバージョン。木型の後方が足なりに内側にひねった形状となっている。 左側:通常設計の木型。 中心線が前から後ろまで一直線となっている。大量生産用の木型
右側)足なりの木型「後方屈曲木型」のミレニアルラストバージョン:木型の後方が足なりに内側にひねった形状となっている。
左側)通常設計の木型:中心線が前から後ろまで一直線となっている。大量生産用の木型。


伊勢丹新宿店メンズ館と複数の靴メーカーがコラボレートし、各ブランドがミレニアル世代に向けた靴をつくるミレニアルラスト企画。この企画を担当した伊勢丹新宿店メンズ館の紳士靴バイヤーを務める田畑智康さんと、ユニオンインペリアルの小田哲史が対談。出会いやドレスシューズの現状、ミレニアルラスト企画に至るまでの経緯など、さまざまなテーマで語ってもらいました。


Profile

株式会社三越伊勢丹 伊勢丹新宿店メンズ館 紳士靴バイヤー 田畑智康さん
三越伊勢丹エクスクルーシブモデル U1961 ¥39,000(税別)。今回の企画のために設計されたミレニアルラストを用いている。

株式会社三越伊勢丹
伊勢丹新宿店メンズ館 紳士靴バイヤー
田畑智康さん

2006年伊勢丹(当時)に入社し伊勢丹新宿店メンズ館紳士靴売り場に配属。アシスタントバイヤー、プライベートブランドのバイヤーなどを経て、2019年より伊勢丹新宿店メンズ館の紳士靴バイヤーを務める。

世界長ユニオン株式會社 ユニオンインペリアル企画 小田哲史
デンマークのECCO Leather社が開発したレザーを用いた三越伊勢丹エクスクルーシブモデル。見る角度によって色が違って見えるという不思議なレザー。U1916 ¥49,000(税別)

世界長ユニオン株式會社
ユニオンインペリアル企画
小田哲史

1996年にユニオンロイヤル(現世界長ユニオン)に入社。イタリアで靴修行のため一度退職し2005年より現職。2008年にユニオンインペリアルを復活させ、同ブランドで企画やデザインに携わる。



ベースになったのは足の軸の向きに沿った日本人向けの木型「後方屈曲木型」

もともとユニオンインペリアルの木型は他と違っていたそうですが。


小田1985年から日本皮革産業連合会という団体が国の委託事業として、日本人の足型を研究する取り組みをスタート。当時、革靴輸入の自由化が検討され始めていて、輸入靴に対抗するために、日本人の足を類型化して靴型を規格化しようというのがその狙いでした。日本で最も木型に詳しい人たちが集まって始めたプロジェクトは7年間続いたのですが、最終的に人間の足のパターン化は複雑すぎて頓挫してしまったんですね。
ただアメリカ陸軍足型分析に着想を得た「足軸」の重要性が指摘され、プロジェクトのリーダーが最後に気付いたのが、大量生産に変わる前の時代の木型はすべて軸の向きがずれていたものだったということ。大量生産しやすいように、木型を簡略化していたのです。

ユニオンインペリアルでは当時のプロジェクトメンバーである日本の靴木型業界の重鎮 福井利三氏(東京靴型組合 組合長 福井靴木型製作所 所属・役職は当時)がその後独自に研究し発展させた「後方屈曲木型」を採用しました。福井氏は日本を代表する靴メーカーをはじめ多くのメーカーにオファーしたものの、靴として具現化できたメーカーは当社が初めてであったそうです。

アメリカ陸軍の足型分析に着想を得た「足軸」研究
アメリカ陸軍の足型分析に着想を得た「足軸」研究


『イージーオーダーシステム研究報告書』日本皮革産業連合会 平成元年度
以下抜粋
「1955年(昭和30年)以前の靴型は、内踏まずの肉付きは内側に張り出し、或いは全体に肉付きが内側に寄っていた。(途中省略)この頃から高まりつつあった需要に応える為の生産性の向上等の影響によって靴型後足部の肉付きは中央寄りに変化してきた。」

『靴適合性向上研究分科会研究事業報告書 高適合性タイプ別靴型の研究』日本皮革産業連合会 平成4年度
「思い起こせば、昔の靴型はこの様な形だったようで、我々はデザインや造り易さにあまりにも気を使いすぎ、お客様である人の足の形を忘れていたのである。」


日本人向けの木型「後方屈曲木型」

田畑昔の靴ってフルオーダーというか、今でいうビスポークに近かったはず。一足ずつ丁寧につくることを前提にした靴づくりによる木型が、研究の結果辿り着いた答えと同じだったということですね。改めて考えてみると当たり前の話なのですが、靴業界に長くいると気づかなくなってしまう。裸足になって自分の足をよく見てみると、最も高いところは中心線からずれているのに、店で売っている靴は最も高いところは見事に中心線に沿っていました。

小田木型って設計図を起こすことができなくて、立体的な3次元的形状として現物そのものがデータになります。ただ、技術が進んだ現在なら、足型に対する形態学的なアプローチは今再び可能となるかもしれません。

田畑難しいのはいい木型ができたからといって、いい靴ができるとは限らないということ。ユニオンインペリアルみたいに工場の技術力が伴っていないと木型のよさを活かしきれないのが難しいところで、実際に釣り込みも技術的に難しいですよね。

小田そうですね。当時、中心線が一直線でない木型を工場の職人に見せたら、本当にびっくりしていましたから。どうやってつくっていいのか分からないというんですよ。中心線から展開していくのですが、その中心線を引くことができないからなんですよね。でも、我々はやってみたらつくることができた。今回のミレニアルラスト企画は、10年前からユニオンインペリアルが採用している木型をアップデートした点が見どころになっています。

日本人向けの木型「後方屈曲木型」

田畑ミレニアル世代をターゲットにするにあたって、かかとを小さくしたり、外くるぶしが靴に当たるので該当するところのラインを少し下げたりとか。そんな細かいところを改善しています。今の若い人たちって、足の指でものをつかむような動きをしてこなかったので、土踏まずのアーチが落ちて開張足のようになっている人が多い。つまり幅はあるけれど薄いという足型に合わせています。

小田あとは従来のユニオンインペリアルはロングノーズ気味なのに対して、田畑さんのアドバイスでノーズを短くしてクラシックなスタイルに変えています。


イタリアのレザーを使いハンドソーン製法で3万9000円を実現

それではミレニアルラスト企画のモデルの紹介をお願いします。


小田まずストレートチップと外羽根式プレーントゥの2モデル。ストレートチップはドレスシューズの王道なので、ミレニアル世代の人達にも履いてほしいという願いから。ただ、ストレートチップだとシーンが限られるので、汎用性の高いダービー(外羽根プレーン)も用意しました。今の若い人にはダービーが人気なので、この2足が基本モデルですね。レザーはイタリアへ行って探してきたもので、ハンドソーンで3万9000円。この価格に収めるのは大変でした。

田畑価格にこだわった点はとても大事。すでに店頭に並んでいるのですが、おかげさまでベストセラーと呼べるくらい非常によく売れていています。

三越伊勢丹エクスクルーシブモデル
三越伊勢丹エクスクルーシブモデル
ストレートチップ U1960 ¥39,000(税別)
ダービープレーン  U1961 ¥39,000(税別)


小田実はもう一つ別のモデルがあり、こちらはサステナビリティに焦点を当てたレザーを使ったものです。

田畑靴業界って、小田さんのように前向きに変わろうとしている人はいるものの、基本的にはあまり変わらない業界なんですね。そこで考えたのがデンマークのシューズブランドのECCO社が持っているレザーを使って、何か新しいことが提案できないかということ。ECCO社は世界各地にタンナーも持っている珍しい靴メーカーで、さまざまなラグジュアリーブランドにもレザーを提供しています。一方で、環境に優しいレザーや角度によって違う色に見えるレザー、光るレザーなど、革新的なレザーをつくっています。彼らはイノベーションレザーと呼んでいるのですが、このレザーを各靴メーカーに持ち帰ってもらい、新しい靴づくりに挑戦してもらったのがもう一つのモデルです。

三越伊勢丹エクスクルーシブモデル
三越伊勢丹エクスクルーシブモデル
ウイングタッセルローファー U1917 ¥49,000(税別)
プレーンタッセルローファー U1916 ¥49,000(税別)


小田田畑さんにECCO社のショールームに連れて行ってもらって、好きにつくってくださいといわれたので、頭をリセットして今までのものとは違う新しいものをつくろうと思いました。私が選んだレザーは見る角度によって色が違って見えるというもので、普段はさまざまな制約があるなかで靴をデザインしていくのですが、このモデルに関しては制約をとっぱらって、面白いものをつくりたいという思いだけでつくりました。ECCO社のイノベーションレザーだけでつくったプレーンタッセルと、アノネイ社のエンボスレザーとコンビネーションさせたウイングチップのタッセルローファーです。


最後にこれから抱負を教えてください。


小田今まで自分たちのこだわりは十分に発信していたつもりでしたが、結果的にはうまく伝わっていなくて、これからはもっと積極的に取り組んでいかなくていけないと思っています。レザーには力を加えて変形させ、力を取り去ってももとに戻らない可塑性という性質があり、こんな複雑な形状の木型を靴として再現できる素材はレザーだけ。あとは吸汗性や透湿性に優れるなど、レザーは靴をつくるのに最高の素材なのです。そのレザーでつくった革靴のよさをもっとお客様に知ってもらいたい。そして、変化していくマーケットの中でアップデートしながら靴づくりを行っていきたいですね。

作り手と売り手の気持ちがひとつになって誕生した ユニオンインペリアルのミレニアルラスト

田畑今の時代のバイヤーって、マーケター的な発想が求められるのですが、ではマーケターって何なのかというと、商品に付加価値を付けて市場に合わせて売ることができる人なのではないかと思っています。そのためには商品のことをよく知らないといけないし、工場に足を運んでどんな考えでどんな靴づくりをされているのかを、真髄の部分まで理解する必要がある。あとはお客様が今何を求めているのかをきちんとキャッチして、それを靴メーカーにフィードバックしていくというのが我々の仕事だと感じています。最近、伊勢丹でスタートしたのが「YourFIT365」という、足形をデジタル計測して最適な一足をリコメンドするサービス。これを実現できたのは、靴メーカーにとって最も大事な木型を快く貸していただいたからなんです。そして、我々が膨大な足型のデータを蓄積できれば、それらのデータを靴メーカーに返して、今回のミレニアルラストの進化版のようなことができるかもしれません。小田さんのような人がいる限りは、日本の靴業界は大丈夫だと思いますが、靴メーカーと小売店が手を取り合えば、日本の靴業界まだまだ成長できる。もっと大きなチャンスがあるはずなので、そこに向かって一緒に靴づくりをしていきたいと思います。